トラックの荷台に座った経験があれば分かると思うが、道が悪いと内臓が上下動するかのように揺れるうえ、跳ね上がってお尻が痛い。軍用トラックの開発者は、その痛みをいかに軽減するか頭が痛い。営業担当者はその努力を横目にさらにコスト削減を考えねばならず心が痛い…。
自衛隊で広く運用されているいすゞ自動車の「3 1/2t(73式大型)トラック」の苦労話は尽きない。
まず、一般的なトラックとの大きな違いは、物資輸送だけでなく、隊員の人員輸送も重要な要求性能だということだ。
それゆえ人が乗ったときには衝撃を和らげ、荷物が乗ったら強く支えるようにバネを2枚仕立てにするなど特別な工夫を施している。こうしたことを知らずに民生品を使うようなことをしたら、乗ってみて初めて「なんだこれは!」ということになるだろう。カタログの写真だけでは気付かないことは多い。
とはいえ、いかに効率的に作れるかの努力はしなくてはならず、同社では民生トラックと同じ製造ライン上で作業を行う混流生産体制を構築し、経費を抑えながらも自衛隊仕様の車両を作る仕組みを成功させた。
しかし昨今は色々な装備品において出荷後、純正部品が使われていないなどの故障の原因も多々あるようで、せっかく製造段階で安く高品質な物を作る創意工夫をしても、これでは報われない気がしてならない。
最近のエンジンはピストンごとに1秒間に数回もの細かい燃料噴射をする精密さで、髪の毛1本でも入れば壊れてしまうのだ。各ノズルは全く異なる構造で、全ての特性をコンピューターが記憶しているため、わずかな異物の存在がシステムそのものを狂わせてしまうのだという。
「これはすごいトラックだ!」
そう声をあげたのは東日本大震災の時「トモダチ作戦」で車両を整備していた米軍兵士だった。同じように水に浸かったトラックが並び、中を開けてみると真っ赤に錆びた米軍の部品に対し、「3 1/2tトラック」の中はピカピカ。中のコンピューターを守るため、気密性に優れ絶対に水が入らないように作られていたのだ。防水加工やそのための配線など、文字通り目に見えない技術がそこに詰まっていた。
国内法を順守し、悪路を難なく走行し、人が乗っても荷物が乗っても適応し、「空気清浄器に負けない」と担当者が胸を張る排ガスの軍用トラックは恐らく世界に類を見ないだろう。
思いがけず米軍から再評価されたエピソードから「よもや輸出か」とつい気がはやるが、製造元では常に「自衛隊にかわいがってもらう3トン半」が最大関心事のようだ。 =毎週月曜掲載
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130521/plt1305210709002-n1.htm
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