米国とメキシコの国境で入国審査を待つ人々。移民は労働力不足解消の大きな武器だが、さまざま問題が起こり、各国は頭を悩ませている
「人口問題」はもっと慎重に
日本において人口問題は、国家・産業の盛衰や食糧・住宅事情などに応じて、昔から論議を呼んできました。総じて戦前は過剰対策としてハワイやブラジルなどへの移民が奨励され、戦後の経済成長期は、産業間の移動と農漁村から商工業都市への移住が比較的機能してきたようです。
しかしここへきて、少子高齢化の行き着く先を短絡的に労働力不足に結び付けて、海外から労働者を招くとか、移民受け入れの法制化の提議までとみにかまびすしくなってきつつあり、いささか冷静さや長期展望施策を欠く尚早論が目立ってきています。
人口構造に関しては、静態・動態両学問を踏まえた人口理論と政治・経済・科学・文化各界の長期戦略が、総合的観点から打ち立てられるべきものだと考えます。総務省や厚生省の提示するほんの一部のデータだけを鵜呑みにし、しかも中身を読み違えているとしか思えないような論点を掲げて騒ぐだけのジャーナリズムや、それらに踊らされる一部政治家に、わが国の未来を託してよいのだろうか。特に「人口動態学」の専門家の提示する多角的観点からの諸々のデータをほとんど目にできないこと、さらにそうしたデータを対比分析した深みのある論評に出くわしたことがないことに、一抹の危惧を抱いています。
「生産年齢人口」数値のとらえ方に大誤算あり
まず、生産年齢人口(15~64歳)の取り上げ方に大きな誤謬があることを痛感します。1960年代には、中学卒で就業した人は半数はいたでしょうし、進学した人も8割は高校卒で就職していたでしょう。つまり15~18歳の就業率は、ざっくり見ても9割近かったわけです。
ところが、きょうこのごろ、中卒後の高校進学者が90%以上、高卒後の大学(短大・専門学校含む)進学者が60%弱ともいいますから、同じ15~18歳の就業率は、ざっくり見て約3分の1と激減しているのです。しかも、通年で55%にも及ぶ大学卒や中退者のうち何割かは就職浪人と称して、海外や遠隔地へ「自分探しの旅」に出たり、あるいは希望の職種に出合わないといってニートや家庭待機の道をゆく人も多く、あるいは、大学院進学や海外留学などの道を選んで、22歳を過ぎても就業していない人が急増しているといわれています。
また、64歳と言う区切りに関しても、60年代頃は、ほとんどの会社で55歳とか60歳定年でしたから、当時の実生産年齢は10年分もゲタをはいている、といっても過言ではないでしょう。
従って、もし昔と今と、より正確な数字で生産年齢を計算するなら、60年代は15~57歳でカウントした数字と、現代なら20~67歳で計算した数字を対比すべきだろうかと思われます。
実際に計算してみると、現代の方がかなり生産年齢人口の数字は大きいことがわかります。しかも10~20年後を予測すると、60年代では女性の寿退社が多かったのに対し、これからは女性労働力(一説に数百万人の余力といわれています)がますます活用されていくでしょう。さらに、健康でもっと働き続けられる定年退職者も増えているので、そうした労働力(一説に1千万人以上)をもっと活用すれば、生産年齢人口は当面維持できると考えるのが妥当ではないでしょうか。
政治もジャーナリズムも、もっと現実に即した数字をとらえた上で冷静かつ知的な論議を展開していただきたいものです。
人口減でも生産性は落ちない
一方、社会文化的な時代の転換にも留意すべきかと思います。産業別の労働力人口の移動を見ると、60年代は第一次産業から第二次産業への急激なシフトが起こりました。それに対し、現代では製造業の生産性向上や機械化の進展もあって、主要労働力が大きく第三次産業へとシフト中です。しかも、その過程で産業間の労働者過不足が一時的に生じています。つまり、人手を食う産業構造の時代から、製造ラインの自動化やロボット・IT機器の活用が進み、人手が効率化・高度化された時代への大きな流れを読み解いておく必要もあるのです。
また、人口が減少しても、1人あたりの生産性は落ちないという説が有力で、需要が減っても労働者1人当たりの価値は増し、賃金は安定し続けるともいわれています。人口減=消費減の結果、無理な生産増の必要性もなくなり、労働時間が短縮することで十分な余暇が発生し、逆に消費を増やす効果も考えられるのです。経済成長論者の仮定は、人口が多いと労働賃金を低く抑えることができるとしますが、それは、現代米国の悲劇でもある貧富格差を大きくするだけで、好ましい未来図ではなさそうです。
さらに、少子高齢化を社会保障面から問題視して、短絡的に「若者に過大な負担がかかる」との論議が多いようですが、これも疑問です。すでに論じてきたように、昔は15歳から(18歳からは大半が)働いて納税していたのに、今は20歳すぎまでほとんど就労しないわけで、負担どころか、60代でも元気で働き、納税している方々(一部は親)に(子が)養ってもらっているという逆転事象にこそ、注目すべきではないでしょうか。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/140504/wec14050418000003-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/140504/wec14050418000003-n2.htm
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/140504/wec14050418000003-n3.htm
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